※2024.8.4公開
なかなか感想の続きを書くところまで行けなかったが、続きを書く。
正直日数が経過しているので感覚としての鮮度は落ちているけれど、自分の中での帰結としてはだいぶはっきりと定まっていると思う。
前回。
ここに書いたことと重複する部分もあるかもしれない。ご了承ください。
※前回は割とぼんやりした書き方ですが、今回はネタバレ感が強いです
【各人物所感】
・主人公(人見広介)
想定していた以上に暗くて怯えた感じの女性コンプレックスなのに驚いた。
(前もって知ってた情報は躁状態の彼だったのかもしれない)
そして性的趣味はともかく、自分と近い存在に思えてしまってぞっとした。
例えばトイレで座って「白い便器を見つめる」のはうなだれているのだろうなとか、細かな部分がなんとなく分かってしまう気がした。
特に僕はたまに衝動的になったり相手に軽蔑されているという被害妄想が昔からあるので、そのあたりの心理的描写には内側を言い当てられたような緊張感もあった。
うっすらと女学生に舐められている教育実習生。というか若い教師、女子高の男教師。
キャラクターとしては比較的多い、どちらかといえばハーレム状態よりもリアルですらあるかもしれない。
信頼されている女生徒を凌辱して暴力に走るというよりは、
リベンジした時の加虐に快感を得るまたは安心感を得る(自分より相手は弱い存在だと確認する)という側面の方が強く、攻略対象に関わらず一貫していた。
また対する彼女たちはどこまで行っても、どこか先生(主人公)のことを全て見通しているかのように
淡泊で100%信頼する、身を預けるということは無いような雰囲気だった。
(さよならを告げるという主題からもそう感じる)
人見は美少女達のおまけのキャラクターというよりはもっと複雑な、多面的な描写が多かった。このゲームはただのエログロ趣味鬱展開ではないと個人的に思った部分。
それは上記の加害的な側面とは別に
汎人間的な愛情?も、強く歪んでいながらも持っているのではないかということ。
人見は本当は全員を助けなければと思っていたが、中盤に誰を救うのかとなえに迫られる。プレイヤーもその選択肢を選んだ以降は、それなりにその時の回答を反映して相手を絞った選択をしていくと思う(よほど捻くれていない限り……)。
それはゲームの便宜上の話だけれど、「本当は全員を救いたい」という感覚が嫌に印象的に感じた。
狂ってしまった人間が「全ての人を救わなくては」と焦るのはよくあることなのかもしれない。新しい宗教をたてるとか。
全ての問題(と一方的に思い込んでいるもの)を背負い込んで自分の世界の中で、
あるべきものをあるべき場所に還す。という拘り。
実在の他者に適用したならば干渉的だ、善意の押し付けで独りよがりだなどと言われてもおかしくない。
しかし本人(人見、歪んだ世界を見ている人)の中ではあくまでも、焦りと強迫観念からくる本人なりの“正義”なのだと思う。
自分は不幸と苦しみの中にある。少女達ももしかしたら俺と同じなのかもしれない。
それならばせめて、その子達だけは悪の蔓延する世界から助けなくては……。
(僕が精神を病んで職場を辞めた時、
他者への不干渉をポリシーに掲げてきた自己方針を曲げて、家族や知人等に不調や苦痛を抱え込むなというのを喧伝して回った。
人見の全てを救わなければと焦る姿は、かつて自分が苦痛の渦中に在った時のそんな行動に似ていると感じた。
やっている自分でも全く説得力がない暴走だとどこか自覚していたし、普段の対人的関係とは正反対な行動を取っている事実に自己乖離するような気持ちになったが、
どうか自分以外の遍く他者だけはという祈りのような、縋るような気持ちだったのを覚えている。
今振り返ってみてもやはりそれは、あくまでも自己満足でしかないのだけれども。)
・望美
一番好きな登場人物。
自分そのものの価値というのを失っていて虚無的、自分が汚れているという強迫観念があり、どのルートを選んでも必ず”既遂”する選択をするという所が。
この世がどんなふうに回っても絶対に屋上から飛び立つという部分は運命づけられていて、それが彼女に許された唯一の自己表現であるように感じられるから。
ヘアピンでひっつめた髪、という部分でニーアレプリカントの主人公ニーアの裏設定を思い出した。
(やむを得ず男娼をしていた少年期、髪が濡れてまとわりつく感覚が嫌だから髪を結っているという話)
望美にもまたそういう生身の気持ち悪さとか、潔癖症な(そうならざるを得なかった)部分を感じる。
望美の親からの性暴力、そこから「私は汚い」という観念が形成されるというのは
臨床的内容や症例を取り扱う本では(少なくとも一昔前は)多重人格の症例としてよく出てくるので、その辺りが参考になっているのではないかと思った。
多重人格というものがスピリチュアルな何かではなく、生存のために意識を分離するという精神病理的な部分から由来するものだと知られはじめた時期。また身体的虐待が周知され始め、精神的虐待というものが今ほど表立っていない時期だろうか。
自分が図書館から本を借りてきた時期やそれら書籍の出版年を考えるとちょうど80年代~00年代によく知られていたような内容だと思う。
(医学にも雑に言えば流行り廃りがあり、現代とは違った当時の精神病理観が垣間見えるのがさよ教の魅力だと思う。エヴァやLain然り)
・まひる
王道妹キャラと王道トラウマの合わせ技、リョナ感も一番強かったと思う。
まひるの第一印象で惹かれた人はかなり求めてたやつが出てきたのではないでしょうか(多分)
睦月除く他メンバーより描写にかなり密度があったように感じる(幼なじみという時間的な重みや記憶の量もあるだろうが)。
トラウマというもの自体が伏線回収的なものなので必然的ではあるが、
主人公の記憶や過去の中にまひるの位置付けが、そして人見がどういった人物であるかがラストに収束していくような構成で好きです。
まひるルートは幼馴染、ロリコン、虐め、殺害、常習的猫殺し、贖罪、小スカ等々かなり罪の重いタイプのルートだと思った。
酒鬼薔薇(97年の事件、さよ教は01年)を彷彿としてしまうし
望美ルートのまひるの「死ぬのが怖い話」をするシーンが、死を知っているという実感伴う言葉が拙い言葉遣いで表現されていてそっちも良かった。
・御幸
プレイ前に気になっていた子(ベリショに近いショートヘアの眼鏡っ子……)。
ただあまりにも自身や主人公に属性が近すぎて
(そして御幸自体が「人間的に自分と同類だが、自分より年下で弱い立場の人間」というタイプの攻略対象であったので)、羞恥心の方が強かった。
僕個人として兄弟は平穏で仲がいい描写が好きなので、そういう兄弟っぽい雰囲気の子が相手だとちょっと攻略対象とは違うな…という感じ。
御幸は肉親じゃないけど……
自分の予想外だったのは哲学とオカルト色が強かったことで、
当時のオカルトブームに当たる年齢なら自分もハマっていただろうと思う。
(UMAはネタ扱いしてそうだけど、神秘主義的なものとかは現にそういうものに惹かれている気もする。盲信こそしないが全てを否定しているとも言い難い。
近年はクトゥルフ然り陰謀論然り、またオカルトブームというか思想が流行ってますが
それらも緩やかに神秘主義と繋がっている気がする。)
御幸に限らず、この作品全体を通して
心理学、哲学、宗教学とそれら周辺の民話等(カンナの花、天使は異教の神、天女伝説)、他オカルト的なものへの造詣が深いと思った。
そういうジャンルが好きな人は面白いと思うし、要素が詰め込まれてるので新しい発見があるかも。時代的には古い内容なので今だと更新されてる情報もありそう。
御幸が直接触れた話題の元ネタは比較的探しやすいが、別売りの資料集では直接的に引用されたもの以外にも参考にされた逸話、作家等々を知ることができて楽しい。
その時代特有の有名な話や時代背景的なものもあるだろうから、こういう風に資料として残してもらえることは後進の者にとってありがたい。
話を戻すと御幸ルートはオナニーに近いというか、自己肯定のための存在だと思う。
魂が抜けた標本(=他者の肉体)に自分の気持ちを投じることであるし、
鯛の鯛や宇宙は薔薇の形などのエピソードから、御幸は相似形的な関係、自己の中に自己を探す関係を徹底的に突き詰めた姿なのではないだろうか。
このルートで睦月(自分の写しではない「本物の他者」として愛し合える可能性のあった、しかし選ばれなかった少女)はサロメの話をする。
想い人の首に自分の気持ちを吹き込んで愛する行為に他者は介在しないという話。
・こより
有名な台詞「そのヒクツさはぁ、すでに傲慢ですよぉ」が嫌いだった。
それは自分によく当てはまり、かつ全くの正論だからだ。
けれど実際にプレイしてからはその苛立たしさの意味が分かった。
彼女は主人公を裏返しに見る、正反対の性格という意味ではなく彼の揚げ足取りのような、混ぜっ返しをする役割を担った存在だったからだ。
(自分のような)プライドを折られて、否定されて生きてきた卑屈な人間は
自己の中に常に対立する存在を作り出して自身を客観的に見ようと試みる(と思う)。
それは理論的な正しさや自分がいかに整然とした考え方をしているか、
いつでも明文的に説明できなくてはいけないからであり、反証に対する言い訳を箇条書きにするためのものだ。
彼女はまさしく主人公の行動を先回りして、その裏にある醜さを露呈させようとしてくる(ように主人公は思う)。
ただ最終的に彼女の心の中には(拾ってくれた主人公に対する)愛情があり、敵意はないということがわかってくる。
こより本命ルートを選べば彼女は今までの言葉の鋭さと相反して(両立して?)、どんな酷いことをしたって愛してくれる存在になる。
別ルートを選べば、彼女は寂しそうに懐かしそうに主人公を愛おしむ。
太眉なのに太眉キャラ特有の情けなさ、芋っぽさみたいなものは薄くて不思議で良かった(それでも彼女は弄られっ子、いじめられっ子とされていたけど)。
ルート的な性癖としては復讐、リベンジ行為もあるのだろうけど
僕が好きなのは舐めてきた相手を絶望に至らしめる、二度と関わらないような圧殺的な復讐なので、
「そういう意味」ではあまりピンとこなかった、受け手が優しくて強すぎるから。
※まひるルートのこよりがさよならの代わりに「ばいばい」と返すシーンがある。人見が選んだ人間(まひる)=最も人見が自己に重点を置いた部分として、それを写し取っているのかもしれない。
・睦月
トゥルーエンドとして、唯一”実在”する他人の少女。だと思う
大体本命枠ってスルーしがちなんですが、
睦月がさりげなく寛容であること(対して他の女の子は制御不能感を感じること)で、相対的に睦月の評価が第一印象よりも上がった。
彼女もまた天使として制御不能な存在ではあるけれど、それは一子女の弄びではなく
上位存在に対する抗えない意識のようで、それが心地よかった。
(絶対に立場の変わらない故の安心感)
僕は最終的に個を失い全体に帰することが幸福、というより定めと考えがちだし、
そこに上位存在の意思の有無はあまり重視してないので主義として掲げるにも弱い。
アナーキズムやカオスに還る的な思想?が入り混じっている気がする。
(特定の名付けられた“主義”に囚われたくないという無意識の反抗かもしれない)
そういう個人的な人生観、死生観にマッチしていてよかった。
(個人的な思想については以下)
天使として舞い上がる睦月の対称的な構図がロールシャッハ=無意識的だとか、
フロイト的な(平たくいうとベタな)性愛からの苦悩と呼べるルートかもしれないが、
あまりにも主人公と他ルートでの主人公像の投影が強いので
他者の存在や愛、不可解さを象徴する彼女そのものの色は強くない。
しかしトゥルーエンドとしてふさわしいルートだと思う。
・となえ
個人的に大変好みです。
となえが好きなのは姐御っぽい口調で、愛煙家で、スレていてどこか達観している雰囲気と雑な性格もあるけれど、
一方でそれなりに精神科医然としているからかもしれない。
ライン越えしつつも……
この物語の救いのない所であり、しかし現実の事例としてあり得てしまう
「患者(人見)の生来の気質が悪いのか、家族が悪いのか?」ということに対して
「誰も悪くない」とはっきり言えるところがとても格好良かった。
あとこれは患者視点な感想だけど1日目冒頭、となえの詰問にも感じる問いに「答え方を間違えてはいけない」と感じるシーンの、
精神科医に“本当の心”を伝えなければという焦りや強迫観念はすごく分かる。
第三者的視点なんて健康な人間でも持ち得ないのに
医者の問いには正確に答えなければ治らない、もしくは応答によっては噓をついていると疑われるのでは…等々考えがちなので、
制作者またはその知人に経験者がいるのではないかというくらいリアルだと思った。
「昔死にかけた話」とそれにまつわる疑問(彼女の性格がまるで変ってしまったかのようである点)も、個人の臨死体験の一つとして面白い話だった。
魂がもし人体模型と入れ替わっていたとしても、一貫した魂ではあるがある経験により変容してしまった結果でも、神秘的でいいなと思う。
(これは怒られを警戒しつつ言うんですが、となえと瀬美奈の百合があったら買い漁ってたと思う。)
・瀬美奈
前述の通り兄弟は仲良しがいいという個人的価値観があるので、彼女自体は嫌いじゃない。
嫌っていたり理解できない面はあれど、毎日病院に来る辺り完全に縁を切りたいとも思えず、唯一の肉親としての情があるように見えるから。
ライン越えの兄弟愛が好きな人は好みかなと思います。
ただ主人公から見た姉は「復讐としてやり返す」のニュアンスが強いので、心は完全に閉じられていることを考えると瀬美奈が不憫な印象が強い。
実は僕はプレイ前からラストの結末、「主人公が見ていたものと実際の世界の違い」を知ってたのですが(逆にそれを知ったからこそプレイしたくなった)
匂わせはあれどラストまで兄弟とは明かされないまま展開するので、瀬美奈が一番タイプだった人(かつ近親無理な人)は可哀想だなと思ってしまった。
傘を買ってもらえなかった姉や、他の兄弟が放り投げてしまったもの(猫)を自分のものとする弟の描写が生々しく苦しくてよかった。
【各少女達に与えられた配役】
このゲームはエロゲの皮を被った、実質は一人の男が操演する/少女たちが代演する
人間の多面性を描写した物語だと思う。
上記の内容とも重複するが、各人物に与えられた要素を列挙するとこうなる。
・望美→この世から消えたいという願望、自分は汚れているという潔癖と自決する潔さ(生真面目さ)、親に抵抗しがたい諦念と虚脱
・まひる→加虐、死の恐怖、罪の意識、性自認前のトラウマ、愛情の試し行為(こんな自分を好いてくれるはずがない、それが明かされるまで)
・御幸→論理武装、他者とのコミュニケーション不和、自閉と虚栄、逃避行動、異性への苦手意識、自己愛、他者の中に自分を見出す(他者に自己のイメージを押し付ける)ということ、自己投影という鏡、異性恐怖、信じること、相似形
・こより→人形という精神の鏡写し、自問自答(天使と悪魔・脳内会議)、対置・裏表の本音(謙遜と卑屈さ、傲慢)、完全性の破壊
・睦月→自分に似て自分ではない似て非なるものとしての他者、上位存在への恐れ(統失的監視妄想)、性(異性の存在)の肯定、信仰、陰陽
・瀬美奈→形式的理想像、女性嫌悪、性の自覚(実際のエピソード)、家庭内不和、コンプレックス、復讐
・となえ→形式的理想像へのアンチテーゼ、自分の持ち得ないもの(赤の他人)、代理母、客観性の内部化、死生観、病理的視点
【11日目】
ゲームの構成として雑に分類すると、
1~3日目(プロローグと各人物接触)
4~8日目(自由選択、選択順とその選択肢で分岐?)
9日目(誰を救うのかというとなえの問い)
10(11)日目(本命攻略キャラの集大成イベント)
11、12日目(エピローグ~ラストのオチの部分)
という感じだったと思います。
(1周目は自分なりに進めて望美ルートを回収。
その他イベント回収は上記サイトを参考にさせていただきました。)
11日目、みんなが幕を下ろすように「さよなら」を伝えるのがカーテンコールのようで好きだ。
あるものは役割だけを果たして、あるものは日々を振り返り、あるものは別れたくないと泣き、そうしながらも一礼して舞台の幕に下がっていく。
睦月以外のルートを選んだ際の睦月の台詞
「先生は自分のことが一番好きなんですよね」は、
実在する少女である睦月以外は全て彼の複製、人格の一部であることを人見に示唆しているのではないだろうか。
そして「失ったものは永遠に返ってこないのだろうか?」という
睦月喪失に対する問いは「この一度のルートで、他者とは永遠にともに生きることはできないと決めつけられるのだろうか?」という自問にもなる気がする。
それは睦月ルートでとなえによって提示される“実在する睦月に会わせてみる”ということにも繋がっている。
これは11日目だったかは曖昧だけれど、
空気中のあらゆるものに晒されているというくだりで人見が叫ぶシーンが個人的に胸が苦しくなった。
同時に、誰かに触れていたはずなのに誰にも触れられないような孤独や隔絶を感じて、自己存在を確かめるようで、とてもよかった。
僕は「自分は何者であるか?」という問いを突き詰めていく(ように思われる)作品が好きというか、
様々な作品においてそういう要素を見出しては勝手に感動しているような人間で、
そういう自分にはぴったりな作品だった。
とても長い時間をかけて書いたので、齟齬が無いか不安です。
以上です。